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「あら、橘さん。こんにちは。明ちゃんはお留守番?」

 その場に立ち尽くした青年は、伴侶を一回り小さくしただけのような少年の後姿を呆然と見送っていたが、通りがかった近所の主婦に挨拶をされて我に返った。
 家には幼い娘が眠っている。その存在を思い出した瞬間に、彼の手足には血が巡り始めた。
 彼は相手に短く挨拶を返すと、一先ずものを考えるのは止めて、帰途を急いだ。



 彼のたった一人の分身は、幸いにもまだ眠りの中にいた。
 その姿を目にした瞬間、青年はベビーベッドの傍らにへたり込む。
 頭一杯に詰め込んでいた娘への心配が無くなると、思考はどうしようもなく、あの少年の台詞に戻っていった。

「なぁ明……あの子、おまえのこと妹って言ってた。それ、どういう意味なんだろうな。直江の弟から見たら、姪だよな。なのに、妹?……まさかな」

 高耶は娘の寝顔に語りかけながら、段々血の気を引いていった。

「だって、そんなの、一つしか考えられねーよ……」

 宏明は、義明の息子なのではないか。

「『戸籍上は』弟だって言ってた。つまり、あの子はそうじゃないと思ってるんだ。義明は自分の兄じゃなくて、父なんだって、そういう意味だよな」

 父親の違う弟というよりも、息子と言った方が頷ける。外見も声もあまりにも似すぎている二人。
 十五歳だと言っていた。直江が家を出たときからちょうど十六年だ。時期は矛盾しない。
 すなわち、直江が家を出てから、その子どもを宿した女性の存在が明らかになり、橘家が彼女と相談して、生まれた子を義明の母が産んだことにした。
 そういう筋書きなら可能だ。
 話に聞く橘の家族の破天荒さを考えれば、そのくらいのことはやりかねない。橘家は地元の名家だというし、懇意の医者に頼んで出生届に細工をすることなど大して難しいことではないだろう。

「嘘だろ……」

 その結論に至って、青年は抱えた膝に額を押し付けた。

 自分にだって明がいる。直江以外の相手との子どもだ。
 しかし、それでも、目の前に直江の息子が現れたら驚いても仕方ないと思う。たとえ直江自身は想像したことすらないことだとしても。

 見も知らないその女性に恐怖する。もしも彼女が真実を直江に告げたら、直江は彼女と息子のもとへ戻ってしまうのではないか、と。

「引き止めることなんか、できるわけない……」







 やがて空腹で目を覚ました子どもに食事をさせ、伴侶の為の夕食を用意すると、青年は腹を満たして眠りについた子どもの傍らに再び膝を抱えた。


 何も知らない伴侶が帰宅したとき、彼を迎えたのは空っぽのリビングだった。



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* back *


10/01/01


まずは、

明けましておめでとうございます!

……にもかかわらず、内容がシリアスで申し訳ありません。。
真相にたどり着くまでにはもう少し。

12/27に拍手コメントくださった方、ありがとうございました。
確かに、相当の面食いに育つであろう明ちゃんのおムコ候補として有力かもです(笑)
両親が十一歳差ですし、十五歳の差はオッケーということで。
顔良し(直江さん瓜二つ)、行動力良し(『兄』を探して突撃)と揃っていますしね。



読んでくださってありがとうございましたvv
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