祀は既に盛り上がりを見せていた。  老について歩いて行った高耶は、ベールの中から珍しそうにそれらの光景を観察した。  市に立つ店は昨日にも増して賑やかで、ただし扱う物が生活用品ではなくなっている。  薄い木の板の上に布を敷いただけの簡単な店先に並べられているのは、何やら卵の飾りのようだ。  卵に彩色して三本の足をつけた小物入れのような形をして、卵型の部分は真ん中で二つに割れ、留め金で 留められている。さらにその天辺には金具が取り付けられていてそこから鎖が通されているものもある。首から 提げることもできるのだ。  色とりどりの卵を見ていてふとイースターエッグを思い出した高耶である。その飾りが何なのかは知らないが、 この祀に欠かせないものなのだということは察することができた。  よく見れば皆がそれぞれに思い思いの卵を持っている。  老人から子どもまで、この場にいる全ての人間がそれを買い求めているのだ。  やはり何か重要な意味のあるものなのだろう。  そんな風に思って肯いていると、老がある店で足を止めた。  手招かれてずらりと並んだ卵たちを指し、彼は何かを言っている。  高耶にも一つ買ってくれようということらしい。  昨夜は家に泊めてもらい、風呂まで使わせてもらって大事にもてなされたというのに、この上さらに物を買ってもらう などということは遠慮される。  どう考えても迷惑を掛けすぎだ、と高耶はありがたく辞退しようとしたのだが、ニコニコしている老人がまるで孫を甘や かしたがる祖父のようで、断りがたくなってしまった。  買ってもらうというのならしっかり選ばなければ、とじっと店の品物を見渡す。  きらびやかな飾りをちりばめた豪華なものから、色を塗り分けただけのもの、精緻な模様が描かれた芸術的なものまで、 卵の飾りはさまざまである。  ざっとそれらを見渡すと、一点に目が留まった。 「あれがいい」  呟いて指差すと、高耶の神秘的な巫女姿に見とれていた店の主人が「呀!」と威勢良く返事をしてそれを取って 来てくれた。 「『それでいいのかね?もっと華やかなものでもいいのに。気を使わなくてもいいんだよ』」  老人は高耶の選んだ卵を見て首を傾げたが、高耶にとってはこれが唯一充分のものである。  深い深い青色に塗られた卵。  シンプルなのに深みがあって底が知れない様子があの男によく似ている。  一目見てそう思ったから、自分が欲しいのはこれだけだ。 「謝 謝!」 「不 客 気、 不 客 気。(いやいや。気にしないで)」  鎖を首に掛けて吊るした青い卵を大事そうに両手で包み、高耶はまた老人について歩いていった。 目指すは祀の中心である。  老は広場の中心に設けられた舞台に裏側から近づいていった。  舞台は堅い材木を組んで作られた堅固な物で、上の板部分は六畳ほどの広さがある。  赤い絨毯を敷き、それが脇へも垂れ下がり、人二人分ほどの高さから地面近くまでを覆い隠していた。  街の人々からは舞台の裏側は見えないようになっているのである。そちらには上へのぼるための階段が 取り付けられ、着飾った『神孫』たちや係りの人間が忙しく上り下りしていた。 「―――村 長、早 安!」 「早!」  舞台裏では係の人間らしい人影が忙しく動き回っている。その中の一人が、高耶を連れて歩いていっ た老人に気づいて元気のいい挨拶を掛けてきた。  まだ若い、高耶とそうは変わらないであろう年代の男だ。  褐色に焼けた肌と対照的な白い歯が健康的だった。 「村長?」  だが、高耶が反応したのは別のことだった。  今、この男は確かに老人を村長と呼んだ。この老人は村長だったのか。  道理で家も立派であるはずだ。自分をもてなした態度も鷹揚で、慣れている雰囲気だった。  村を束ねるほどの人物であるのならそれらのことも頷ける。 「『神孫を連れてきたんだ。上へあげてやってくれ』」  村長は若いその男に言って、高耶を前に押し出した。 「呀!」  男は高耶を見て、目を見張った。  高耶を上から下までざっと見てから村長に顔を戻し、 「『これはまた、きれいな巫女だ。今年の行幸祭は最高だねぇ。盛り上がるよ』」 と嬉しそうに笑っている。村長も肯いて、 「『ああ、よろしく頼む。実は連れとはぐれてしまったそうなんだ。きっと片割れの方も探していることだろうから、  それらしい人物が来たら会わせてやっておくれ』」  手短に事情を説明すると、 「了 解。(わかったよ)」  男は陽気そうに胸を叩いて、任せろと笑った。 村長はまた後でと言ってそこを立ち去り、係の男は残された高耶に大きな籐の籠を差し出して言った。 「『じゃあ、兄さん、いいかい?舞台に上がって、下へこの花びらを投げてやってくれ。  あとは、できれば、にこやかに頼むな』」  細かい内容まではわからなかったが、渡された籠とその中身、そして身振りとで、この中に詰まっている色とりどりの 花びらをばらまけばよいのだということは知れた。  高耶は「わかった」と頷いて、舞台へ上がる階段を登っていった。  その胸元では、鎖に吊るされたあの青い卵が揺れている。




4Pめ。いよいよ明日はイヴですね〜vv
さて、着飾った二人の図、描いてみました。ただし色付けができておらず。明日にうまいこと仕上げられればなと思います。頑張るぞ〜
(ちなみに今回から背景に高耶さんの見返り美人像貼ってみました。どうでしょう?)


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