海よりも蒼く、空よりも藍いブルー
『思い出してくれましたか?』 「なおえ……」 あのとき教えてもらった男の名前を、呼んだ。 『そうですよ。覚えていてくれたんですね、高耶さん』 男の琥珀色の瞳がとても嬉しそうに微笑んで、背を抱く腕の片方が背を離れて頬に触れてきた。オレを二度助けて拾い上げてくれた、優しくて強い手が、そうっと優しく、愛しそうに頬を撫でてくる。 「お前の目を見て思い出したよ……なあ、今度こそ一緒にいよう。オレはお前のほかに誰もいらないんだ。おまえを忘れたままなら、海に沈むつもりだったんだ」 両腕を直江の首に回して、ぎゅっとしがみついた。 何もかも喪って死にたかったオレを、直江は二度助けてくれた。海の底で、大事な力まで使って、オレと暮らしてくれた。両親を喪ったオレにとって、あの短い時間は宝物だったんだ。直江はオレの傍にいて、親のない悲しみを忘れさせてくれた。一緒に生きるという言葉をくれた。 そして、本当に迎えに来てくれたんだ。 『約束しましたよ。伴侶になると。一度は裂かれたけれど、今度こそ誰にも邪魔はさせない。 高耶さん、私は人間になって、あなたのいる陸へ上がりたい。一緒にいてくれますか。あなたと二人で暮らすことを許してくれますか』 「一緒に来てくれ。今度はオレのところにお前を連れていく。オレは何でもするよ。お前と暮らすために、何でも!」 水中では息の出来ない陸の者に貴重な力を与えて、共に暮らせるよう骨を折ってくれた彼のために。 今度は、陸上で生きるために彼に必要なことを、自分が手伝う。 足のない彼のために、自分は彼の手足になろう。 声帯のない彼のために、自分は彼の耳と口になろう。 水と離れられない彼のために、自分は毎日彼を海へ連れて行こう。 どんなことでもしよう。 「オレがお前の手足になる。口になる。何だってする!だから、一緒に行こう……!」 その言葉に応えて、直江は、初めて強い力で高耶を抱きしめた。 『ありがとう……』 「ありがとうはこっちの台詞だよ、直江……」 しばしの抱擁ののち、直江は力強い尾びれで水面を目指した。 |
2004/04/17