海よりも蒼く、空よりも藍いブルー
「―――ッ!」 やがて海面が近くなってくると、日の射す量も増える。 そうして周りが明るくなると、オレは目を開けて自分の状況を確認しようとした。 ―――そして目にしたものは、悲鳴も上げられないほど不思議な光景だった。 オレを抱きしめている男は、見事に鍛えられた上半身を惜しみなくさらしていた。勿論、それだけならば大して驚くようなことじゃあない。 オレに目を疑わせたのは、男の背中と下半身を形作っている青い魚のパーツだった。 背中に生えているのは、とびうおのような薄くて青みがかった透けるような羽。 そして下半身を形作っているのは、青い鱗の生えた魚の尾。 男は、御伽話に出てくるような半人半魚の生き物だった。 男の背で優雅に水を掻いている二枚の羽は、さっきオレが触った謎の物体なのだろう。 魚の下半身もゆっくりとうねるように動いて水の中を進んでいる。 男の顔から胸と腕だけは人と同じで、抱きしめられると心地が良かった。 『どうしたの?……ああ、驚いたんですね、これを見て』 様子のおかしいオレに気づいて、前方を見ていた男が視線をこちらへ戻した。 そうだ。直接頭の中に聴こえてくるようなこんな『声』、人間のはずがない。人は声帯を震わせることで空気を動かして言葉を発するのだから。海の中でこんな風にはっきりと明瞭に聞こえてくるこれが、声帯で発する声のはずがない。 『ねえ、高耶さん。もうすぐ水面に着きますよ。どうしますか。戻りますか、地上に』 不思議な生き物は、背中の羽と魚の尾の動きを止めて、オレに向き直った。 『あなたはどうして海に入ったの。間違って落っこちたんですか?』 琥珀色の瞳がじっと見守るようにオレを見つめる。 「違う。……オレは地上へは戻らない。このまま海の底に沈みたいんだ。邪魔しないでくれ」 その優しい琥珀色の光をどこかで見たことがあるような錯覚を覚えて、瞬きをした。 『今度は本当に海の底で暮らしてくれるんですか。高耶さん』 男はふっと目を細めて、オレの背中を抱く腕を強めた。 「……ぇ?」 よりいっそう近づいた琥珀色の瞳に魅入られたようになる。 『そろそろ思い出してくれませんか……私との約束』 瞳を見つめ、男の言葉を聞いて、頭の中のどこかでカチリと鍵の開く音がした。 |
2004/04/13