○ ○ ○ 遠い海 ○ ○ ○ マザー・ネイチャー ○ ○ ○ 還ろう 遥かなる ○ 母の胎内へ ○ ○ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 風は何処へ向かって吹いているの 波は誰を想って泣くの 海の蒼は人魚たちの涙のいろ 空の青は泡と消えた人魚たちの悲しみ 風は何処へ向かって吹くの 波は誰を想って泣いているの
青い 水面が遠ざかるにつれて、青さが増してゆく。 どんどん、どんどん、青が透きとおってゆく。 青い 綺麗な、綺麗なブルー ―――……
ばあちゃんが死んでしまった。 たったひとりの家族が。 ばあちゃんは本当のばあちゃんじゃあない。小さなオレが浜辺に打ち上げられていたのを助けてくれた人だ。本当の家族のことはわからない。オレは名前以外のことを何も覚えていなかった。 そんなオレを、ばあちゃんは引き取って育ててくれた。十二年もの間。 人の少ない田舎の海辺で、オレはばあちゃんと二人、静かに暮らしてきたのだ。 そのばあちゃんが、死んでしまった。 去年から具合が悪かったのは知っていた。でも、本当にこうしてばあちゃんがいなくなってしまうなんて、想像もしなかった。いや、そうじゃあなくて、今ここにある現実は、想像の域を超えていたのだ。 この世にたった一人になってしまったという凄まじい孤独感と、もう何のためにこれ以上生き続けなければならないのかわからないという無気力感。 ばあちゃんを送って、がらんとなった家を見たとき、オレの足は自然と浜辺へ向いていた。 小さなオレが打ち上げられていた浜辺。そのオレをばあちゃんが拾ってくれた場所へ。 ざぶん……ざあ…… ざぶん……ざあ…… 繰り返し同じリズムで浜を舐める波に、躊躇わず足を踏み入れる。 まだ明るい海は、冷たくオレを拒みはしなかった。 あたたかく、抱きしめるようにオレを包み込んだ。 待っていたよ……おかえり……いとし子よ―――と、そう言ってくれるようだった。 ゆっくりと、水面が遠ざかってゆく。 綺麗な、綺麗なブルーが視界一杯に広がってゆく。 遠くなる。 光が、遠くなる。 音も、消えてゆく。 全身があたたかな海に抱かれて、ずっとずっと奥底へと母の腕が誘う。 ああ、綺麗だ…… ゆっくりと、目を閉じた。 最後に見たのは、この世のものとは思えない、美しいブルーだった。 |
2004/04/11