サイコウノシアワセ


「―――ところで、最近あなたが好んで飲んでいたあの妙な飲み物は一体何ですか?」
「ん、あれ?ハリに訊いたのか?」
「ええ。食欲が無いというのにその飲み物だけは欠かさず飲むから、不思議に思ったようです」
「そうか。あれは高坂にもらった薬」
「高坂ですって !? なんでまた」
「体調不良について相談しに行ったときにもらった。薬でどうにかなるものではありませんがって言ってたけど、何かくれよって頼んだらくれたんだ。甘くておいしいから、薬っていうよりおやつみたいだけどな」
「そんな怪しげなものを口にしたんですか!むしろ体調が悪化したんじゃあ……」
「だから、オレのこれは病気じゃないんだってば!」
「ああ、そうでしたね。確かに。ええ。そのとおり」
「……頷きすぎだぞ」
「だって、たった今、確かめたばかりでしょう?完璧に、念入りに、ねぇ……」
「……うるさい!オレはもう寝る!」
「はいはい、おやすみなさい。お疲れ様」


過保護な魔法使いは元妖精の恋人が不貞寝すると、『魔女』がくれた薬を確認しに厨房へと向かった。
「……ココア?」
銀色の小さな缶の中に入っていた粉末は、カカオを主原料とするチョコレートとほぼ同じ成分のものだった。
「なぜあの男はこんなものを……」
首を捻り、ふと気づく。
「……そういえば、もうすぐ紳士感謝の日だな。それでか」

2月14日はサンクスミスターディ。兄弟や友達、恋人など、間柄は問わず、日ごろの感謝を込めて男性へ贈りものをする日だ。
落人の元妖精に対して、同じ異世界属性の存在として親しみを感じているらしいあの『魔女』は、この時期ということもあってココアを贈ったのだろう。
赤いカーネーションがサンクスマザーズディの象徴であるように、サンクスミスターディのキーワードはチョコレートだから。

「―――しかし、あの男に先を越されるとは、不覚だった……」

魔法使いは低く呟き、当日は必ず街一番のチョコレートを届けさせようと心に誓ったのだった。

fin.

04/02/14





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