fromLOVE - STEP4 -



 part.1

 帰宅すると、いつもなら飛びついてくるはずの大きな黒猫が、そうしなかった。

 そのくせ瞳はきらきら光って(ただし、危険な色に)、じっと見つめてくる。どこか恨めしげに。

 ―――何かまずいことでもしてしまったのだろうか、と背中に冷や汗を流した男である。

 今から帰りますコールをしなかったのがいけなかったのだろうかとか、掃除の最中に昔の日記でも発見されてしまったのだろうかとか、あまり心当たりが無いために必死に色々なことを思い返し、
……とりあえず単刀直入に訊ねてみることにした。

 すると。

「―――電話」
「え?」
「昼間、電話があった。……女から」
「はい?女、ですか」
「そ。お、ん、な!」

 幼い子どもならば、ぷーっと頬を膨らませていることだろう。
 年下の恋人は既に二十歳を過ぎているのでそこまであからさまなことはしなかったが、心境は同じであると思って間違いない。猫なら、毛を逆立てて唸っているところだ。

 年上の恋人は慌てた。

 名誉のために言っておくが、むろん浮気に心当たりがあるわけではない。恋人の機嫌の悪さが危機感を煽っているだけである。

「え、と、女は女でも、どこの女でしたか?事務の方、とかではなくて?」

「どこの女かって、聞きたいのはオレだ!
 ……学校関係じゃねーのは確かだよ。直江は助教授なんだから、誰でもきちんと『先生』付けで呼ぶだろ」
 叫んでから、俯いて唇を噛んだ青年である。

 筋金入りの学者らしく生身の人間の扱いには不器用な男は、困ってしまって、とりあえず宥めようと相手の肩を抱いた。
 体に力が入っていた黒猫は肩に触れたぬくもりに多少は気が解けたようで、少し息を吐いた。

「学校関係じゃないとなると、一体何を名乗ったんですか?」
「知らねーよっ……いきなり、ちょっと信綱!……って」

「……」
 年上の男は、おや?と首を傾げた。何か心当たりでもあるものか。

「『また連絡するって言ったのそっちでしょ、何でいつまで経っても返事してこないのよ!私のスケジュールは厳しいんだから早く予定言ってくれないと困るっていつも言ってるでしょ!』」

「……いや、それは、たぶん……」
 男はむむっと眉を寄せて口を挟んだが、勢いづいた相手の言葉はとどまらず。

「『あんたみたいなボーっとしたのに付き合ってあげる女なんてあたしくらいなんだからね。とっとと返事寄越さないと縁切るわよ!いい?じゃあね』
 ―――プツン。オレが一言も挟むヒマもなく、一気にまくしたててお終い。何なんだよ一体!誰なんだよあれ!?」

 青年は頭を抱えんばかりである。


 続く。
あ、見つかりましたね。

ちょっと隠してみました。Q&Aだけよりは、こういう遊びもあったほうが楽しいかと。
少し前に宝物部屋にUPしたねねむさま宛てのお礼用ショートのネタを引き摺っております。
実際に女から電話が掛かってきたら、のお話。
何だかどんどん高耶さんが乙女チックになっていっている気が……。
そんなわけで、ちょっと隠し。
楽しんでいただけていたら嬉しいですvv
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