How Do You Want Me To Love You?
『オレ―――ほしいものがあるんだ、ずっと前から』
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風呂を済ませ、青年と赤ん坊におやすみを言って自分の寝室に入った男は、ベッドサイドに腰掛けて仕事上の書類に目を通していた。
軽く見ておくだけのつもりが、いつのまにか真剣にのめりこみ、彼は時間の経つのを忘れてペンを走らせている。
部屋に入って、二時間もたったころか。
ふと、遠慮気味に扉をノックする音に気づいた。
「高耶さん?」
顔を上げると、ドアが細めに開いてそこから青年の顔が覗いた。
「ごめん、邪魔した?」
ベッドに掛けて仕事用の眼鏡を着けている男とそのまわりに散乱した紙を見て、彼は状況を読んだらしい。
申し訳なさそうな顔をして、声を沈ませたが、それでも何か用事があるのか、いつもとは違って立ち去ろうとはしない。男はその様子に気づいて、眼鏡を外した。
書類を揃えて鞄に仕舞いながら、彼は青年に微笑みかけた。
「いらっしゃい。何かお話があるんでしょう?」
右手を伸ばして招くと、相手は一瞬躊躇うようにして、それから扉を開いて中へ入ってきた。
どこか動きがぎこちない。
背を向けて、開けたドアをきちんと閉め、彼はそのままで大きく一つ深呼吸した。
その後姿に首を傾げながら、男は相手が向き直るのを待っている。
やがて、青年は決心したように息を詰め、男に向き直った。
そのまま、挑むように相手を見つめる。
漆黒の珠のような瞳が、男の鳶色の瞳の奥に潜り込んで、男は息を忘れた。
その視線の意味が、わかってしまったから。
「……高耶さん」
「言うな」
青年はそのまま、ゆっくりと、しかしまっすぐに、相手の前まで歩いてきた。
両腕を伸ばして、男の肩の上に置く。
そのまま半身を乗り出して、間近で再び見つめなおした。
―――澄んだ鳶色の瞳。優しい色を浮かべて二人を見守るその双眸。
この瞳が好きだ。
―――何て綺麗な黒だろう。
一目見たときから、その輝きに瞠目していた。
涙を浮かべるときも、この世界に挑戦するように昂然と光るときも。どんなときも。
この瞳に見惚れる。
「……欲しいものがあるんだ。ずっと前から」
彼はその瞳で痛いほどにこちらを見つめながら、微かな声でそう言った。
「何でも、あなたが望むのなら、月でも」
男は真摯な瞳でそう返した。
「何でも……?」
青年の瞳が熱い奔流に燃えた。
「本気でそう言うのか」
「いつだって本気ですよ。嘘も遠慮もいらない。本音で接したいから」
男が初めて、見返す瞳に熱を灯した。
何が欲しいんですか……?
「明ちゃんは……?」
腕の中に死ぬほどきつく抱きしめて、男は裏腹にそんなことを尋ねた。
「よく……寝てるよ」
抱擁だけで、こぼれる息はやるせないほどに熱い。
青年は目を半ば閉じて、すがるように男の首に腕を回していた。
「そうですか……それで、本当にいいんですね……?」
その首筋に唇を触れて、一つだけ痕を残すと、男は最後の駄目押しとばかりに耳元に囁いた。
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というわけで、これは「baby,baby!」の二人でした。
上に載せたのは「高耶さんお誕生日編」後編の一部です。前後を読んでやろうという御方はこちらへどうぞ。一週間くらいは飛べます。その後は予定どおり記念日限定部屋に格納いたします。
読んでくださってありがとうございました。ご感想などいただけると嬉しいです。こちらへどうぞ〜。
(picture by KAI)