baby,baby!―――年末年始編 1/1の模様



「えっと、あけましておめでとうございます」

 日付が変わり、テレビがどこかの寺の様子を映し出すころ、腕の中でこてんと眠りに落ちている赤ん坊を起こさないようにそっとその背中を撫でてやりながら、青年は傍らにいる男を見上げて、少し恥ずかしそうに新年の挨拶を述べた。新年の挨拶を改まってするということに照れているらしい。

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」
 男はそんな青年の様子が可愛くてたまらないという表情で、甘く答えた。
「ん。よろしくな」
 青年はその眼差しを受け止めて、こてんと男の肩に頭を預けた。
「今年も来年も、ずっとね」
 その人の肩を抱き寄せて、嬉しそうに自分も頭を傍らへ預け、男は頷く。
「うん……」
 二人はそうして幸せそうにくっつきあった。
 すっかり家庭人になった家長の男に、主夫の青年がぺたりと張り付き。
 可愛らしい寝息をたてる娘は父親の膝に。

「一年の計は元旦にあり、っていうよな」
「言いますね」
「じゃあ、今年は幸せな一年になる」
「今、幸せ?」
「とってもシアワセ」

 青年は伴侶に甘える顔になって、傍らの男を見上げる。

「俺もとってもシアワセですよ」

 男も嬉しそうに微笑んで、すいっと顔を近づけ、掠めるようなキスを落とした。

「今年の初ちゅーだな」

 ぽうっと赤くなり、青年が笑う。

「何度でもこれからたくさん、しましょう」
「今年の最後も、キスでおしまいにしような」
「ええ。明ちゃんには内緒でね」
「当分、内緒な」
「さあ、そろそろ一眠りしましょうか。起きたらあなたが腕を振るってくれたお節料理を食べて、神社にお参りに行きましょう」
「オレのお節もいいけどさ、直江の雑煮、楽しみにしてるよ」
「そういえばお節には各地の特有の味付けがあるんですよ。ご存じですか?」
「そんなことを聞いたことがある気はする」
「私の地方はね、お雑煮にきな粉を山盛り振りかけるんですよ。そんなのでもいいですか?」
「え!まじ!」
「嘘です。うちのお雑煮はあまり特色のない、白味噌ベースのごった煮ですよ」
「う。意地悪……」
「そうやって唇を尖らせるあなたが可愛いから、つい」

 また、ちゅっと唇を奪う。

「……いじわる」
 青年はまた頬の色を赤く高揚させ、上目遣いに伴侶を見上げる。

 二人がもっと近くへ顔を寄せていったとき、ふと青年の膝で愛娘が寝返りを打った。

「あ」
 初々しくぱっと身を離してしまう青年に、
「明ちゃんをベッドに移してあげてから、寝ましょうか」
 こめかみに軽くキスをして、男は身を離した。
「ん」
「はい、明ちゃんをこちらへ」
 大きな体を器用にするりと扱って、こたつから抜け出た男は、青年の膝で眠る赤ん坊に向かって両腕を伸ばす。
「おう、頼む」
 娘の脇に手を差し入れて、そっと抱き上げた父親が、その小さな体を男へと差し上げる。
「ああ、よく眠って」
 受け取った体を大事そうに胸に抱き、その寝顔を覗き込んで、男は愛しげに微笑んだ。
「そうだな。寝る子は育つ」
「そのとおりですね。いつも元気一杯で、本当にいいことだ」
「じゃあ、良い子はベッドの時間だぞ」
「ええ。送り届けてきます」

「じゃ、オレはあっちで待ってるから」
「はい。寝ないで待っててくださいね」


「……と言いつつ寝ていそうなあなたが好きですよ」
 赤ん坊をうやうやしく寝所へと運びながら、くすりと笑って呟く男だった。


 赤ん坊をベビーベッドに寝かせてから主寝室に向かった男が、こんもりと丸くなって規則正しく上下している掛け布団に目をやって、
「やっぱりね」
と笑うのを―――誰も見てはいない。薄い雲に隠れた月だけが、それを知っている。
「おやすみなさい、高耶さん。よい初夢を」
 愛しい人の傍らに潜り込んでその頬にキスを落とし、男も幸せな夢を食む―――


1/1
……新年早々らぶらぶ。
ここから一年が始まるのだから、少しくらい惚気てもいいよねと思いながら……。

というわけで、あけましておめでとうございます。
良い年になりますように。
良い眺めを見られますように。