baby,baby!―――年末年始編 12/31の模様
「今年はほんとに色んなことがあった」
ぴかぴかに磨かれた家の中。
立ち込める御節料理の香り。
リビングには温かいラグマットとこたつ。こたつの上には蜜柑。
出窓のところに鏡餅。
新年を迎える準備を万端に整えた我が家で、三人家族は年越しに臨んでいた。
「そうですね。私はあなたと明ちゃんに出会えた。家族になれた」
2〜3人用のコンパクトなこたつに、家長である男と、主夫である青年とが、ソファに背中を預ける形で並んでいる。赤ん坊は男の膝の上でご機嫌だ。
そんな状態で、目は年末恒例の歌合戦を見ながら、ぽつりと呟いた青年の言葉に、男が頷いた。
伴侶となった青年の肩へ腕を回してそっと自分の肩に寄りかからせてやり、愛しげに相槌を打つと、
「オレには明が生まれて、ねーさんがいなくなって、直江に出会った」
それに対して青年も素直に身を任せて甘えるような仕草を見せる。
「嬉しいこと、悲しいこと、幸せなこと、色々なことがあって……でもきっと最後に言えることは―――いい年でしたね」
男は、肩に懐いてくる青年を、片腕でしっかりと抱きしめて、とてもゆっくりと囁いた。
一言一言、噛み締めるように、静かに、ゆっくりと。
「うん……」
青年は目を閉じて、男の肩から伝わる鼓動に耳を澄ませるような表情になった。
「何が聞こえる?」
男が青年の頭に自分の頭をもたせかけ、問うと、
「直江の生きてる音」
伴侶の肩と頭にサンドイッチにされた青年は、くすぐったそうに笑いながらそう答えた。
「―――それから、明の声」
頭上で親たちが仲良くしているのに気づいた娘がいつの間にか、大好きな『なー』の膝の上で器用に立ち上がり、『たー』の方へしきりに手を伸ばして、
「たー、たー」
と父親の名を呼んでいる。
「め〜い〜そろそろオレの膝にくるか〜?」
父親は赤ん坊のぽわぽわした髪に手を伸ばして、サンドイッチにされたまま娘へと微笑みかけ―――
後に残るのは、空っぽになった膝を少し淋しそうに見つめる男と、その肩にふにゃりと凭れている青年、そして青年の膝の上に立ってこたつの上の蜜柑に挑戦中の小さな娘の図だった。
もう少し時間が経てば、赤ん坊はすやすやと眠りに落ちるだろう。
そして、新しい年が来る。
三人が家族になって初めての元旦がやってくる―――
12/31
おおつごもりです。
明日は新年ですね!皆様にとって、良い年になりますように。