baby,baby! ... “明のお父さんとパパ”
明のおうちは白くて大きなマンションです。
お掃除がとってもきれいに行き届いていて、カーテンは白くてひらひらしてるの。
おうちの中には鉢植えがあちこちに置いてあって、ベランダのプランタはいつもいい匂いのお花が咲いています。
でも、うちにはママはいません。お掃除も緑の世話も、他所のお家みたいにきれいなママがしているわけじゃないんです。
明は、お父さんとパパとの三人で暮らしています。
お父さんはまだとっても若くて、二十八歳です。明はお父さん似です。髪の毛も目もまっくろなの。顔立ちもそっくりだと言われます。
お父さんは口が悪いけど、本当はすごく優しいです。家の中のことは何でもお父さんがやっています。お料理もお洗濯も、お掃除も緑の世話も、お父さんは何でも上手です。
それから、お父さんはとってもかっこいいです。友達がみんなそう言うから、『こどもの欲目』じゃないよ。顔だけじゃなくて、スタイルとかもきれいです。
でも、おうちではパパに甘えてるの。そんなときのお父さんはかわいいです。パパの気持ちがわかる気がします。
お父さんとパパは、とっても仲良しです。
パパはお父さんより十一歳も年上なんだけど、老けてるって言われたりはしません。パパは外人さんみたいにきれいなお顔をしていて、髪の毛も目も茶色っぽいです。背がとっても高くて、お腹は全然出てないし、テレビの中の芸能人よりもずっとかっこいいです。三人で歩いてると、あっちこっちから視線が集まってくるのはたぶんパパのせい。
そんなとき、明はちょっと嬉しいです。こんなかっこいいパパに堂々と抱っこしてもらえるのは明だけだもん。もちろん、お父さんは別格だけど。
パパはとっても力持ちで、明のことなんか片手でも持ち上げられます。お父さんのことはさすがに両手だけど。
でも、たぶんパパは、右手にお父さん、左手に明をぶら下げても平気です。見た目は俳優さんみたいなのに、スポーツ選手顔負けの筋肉を持っています。膝に座らせてもらうと硬いの。でも、プロレスラーみたいなのではないです。たぶん。
パパは明のことを明ちゃんて呼んでくれます。にっこりしながらそうやって呼んでもらうと、明はとっても嬉しいです。
明はパパが大好きです。
もちろん、お父さんも大好き。
お父さんは明のことを呼び捨てにします。“オレの明”って呼ぶとき、お父さんはとっても幸せそうな顔をしています。
明はお父さんの子どもで、ライバルです。
明のお父さんとパパはとっても仲良しです。だから、明はパパとお父さんの子どもなんだと思っていました。
明みたいな子どもはそんなに珍しくないです。パパが二人とか、ママが二人とか、そういう子。
ちょっと昔まではすごく珍しかったみたいなんだけど、明と同じくらいの歳の子どもの中では四五人に一人くらいいます。いじめられたりもしません。
明なんかはうらやましがられるくらいです。お父さんもパパもとってもかっこいいから。
でも、明はパパの子どもじゃありません。
明みたいな子のパパたちはおなかに大きな傷跡があるんだって友達に聞いて、あれれと思ったのがきっかけです。
赤ちゃんをおなかに入れて、育てて、大きくなったら取り出すんだって。そのためにおなかを切るから、傷ができるそうです。
でも、明のパパもお父さんも体に大きな傷跡はないです。小さいときから一緒にお風呂に入ってるから、見過ごしたわけじゃないの。
どうしてだろうと思ってお父さんに聞いてみたら、パパが帰ってきてから三人でテーブルについて、お話をしてくれたの。
明を産んでくれたのはパパでもお父さんでもなくて、お父さんの友達の綾子お姉さんです。
それを聞いたときはすごく悲しかったです。パパと血が繋がっていないなんて思ったこともなかったから。
でも、パパはいつもと同じ優しい声で、明ちゃん、って呼んで、笑ってくれました。明ちゃんはパパの大事な一人娘ですよ、って言って明を抱きしめてくれました。
パパは自分の子どもじゃない明をずっと大事に育ててくれたんだ、って思うと、泣いちゃいました。
明がまだ赤ちゃんだったころから、パパはずっと、明のことを本当に可愛がってくれたんです。明がこれまで一度も疑わなかったんだから、パパの愛情は本物なんだと思います。
明は、優しくて甘くて、でもたまに厳しいパパが、大好きです。
明は、お父さんのライバルなの。
パパが明にちゅーするとお父さんは「オレの明に何すんだ!」ってパパに怒るけど、本当は拗ねてるだけです。それがわかっているから、パパはすぐにお父さんにもちゅーします。「はいはい、あなたにもしてあげますよ」って、笑いながら。
そうしたらお父さんはちょっとだけ赤くなるの。「明と同じに扱うんじゃねーよ」って呟いて。
そんなお父さんがかわいいから、明とパパはないしょで笑います。またしようねってこっそり指きりします。
でも、お父さんをからかうのは、あんまりしょっちゅうだと怖いです。
からかわれてるって気づいたら、お父さんは仕返しに明とパパの嫌いなものをご飯にするの。
それでパパはときどき納豆責めにされて引きつっています。
明はにんじんとピーマンがお皿に乗ってるとゆううつです。
そしてお父さんは嬉しそうに笑います。いじわる。
でも、明もパパも、そんなお父さんが大好きです。
明は、明のお父さんとパパが大好きです。
今日はここまで。おやすみなさい。
9/25
というわけで、明ちゃんの日記でした。
およそ十年後の設定ですね。明ちゃん小学四年生。
(小学生にしては大人?それは直江さんの影響です、きっと。明ちゃんは時々『パパ』の口調を真似て『ですます』でお父さんをからかいます。)
読んでくださってありがとうございました。
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